腸内フローラの基礎知識

グラム陽性菌とグラム陰性菌の違い

 

グラム陽性菌とグラム陰性菌 

 

グラム陽性菌とグラム陰性菌の違いは、菌体の外部を覆っている膜の構造の違いによるものです。

 

大部分の細菌は自らの生命を維持するために細胞壁を備えています。

 

この細胞壁を持っていることで菌体の構造を維持しています。

 

この細胞壁の構造や特徴を知ることで、効果のある抗生剤の選択や新薬を開発のヒントになりますので、細菌の構造による分類は重要です。

 

 

グラム陽性菌の構造
グラム陽性菌は、細胞の外側表面がペプチドグリカンという糖やたんぱく質、タイコ酸と呼ばれる物質の一層でおおわれ外側には外膜はありません。
 
グラム陰性菌の構造
グラム陰性菌は、細胞の外側表面は、グラム陽性菌よりも薄いペプチドグリカンの層とその外側に脂質やたんぱく質に富んだ外膜、この二層の間に細胞内に栄養分を取り込むための分解酵素や結合タンパク質を持つペリプラズム領域を持っています。
 
抗生剤は、細胞壁を破壊することでこれらの細菌を死滅させる薬剤ですが、グラム陰性菌は外膜がカプセル様の「莢膜」や粘液層で覆われた構造となっているものが多いため、グラム陽性菌よりも病原性が高い傾向があります。
 
 
「莢膜(きょうまく)」
莢膜とは、菌体の周囲を覆っているカプセル様の物質で、この莢膜をもつ細菌はマクロファージや好中球などの免疫細胞から貪食されにくくなります。莢膜を持たない細菌はこれらに貪食されるため感染症に進みにくいといえます。
 
グラム陽性菌にも莢膜を持つ細菌がありますが、その代表の肺炎連鎖球菌は肺炎や敗血症、髄膜炎などを引き起こす強毒性があります。
 

 

グラム染色とは
グラム陽性菌とグラム陰性菌は、その構造の違いによってグラム染色での染色が異なります。

 

グラム染色とは、発明したデンマークのハンス・グラムの名前から名付けられた細菌の染色法の一つで現在では細菌を分類する基準の一つになっています。

 

グラム染色によって、光学顕微鏡で観察して紫色に染まる細菌をグラム陽性菌、赤く染まる細菌をグラム陰性菌と呼んでいます。

 

 

菌体の形状
グラム陽性菌とグラム陰性菌の菌体の形状には、それぞれ丸い形状をした「球菌」と細長い形状の「桿菌(かんきん)」があります。

 

よって、「グラム陽性球菌」、「グラム陽性桿菌」、「グラム陰性球菌」、「グラム陰性桿菌」の4種類があります。

 

数が多く医療現場で問題となるのは、「グラム陽性球菌」と「グラム陰性桿菌」です。

 

 

グラム染色で分かること
グラム染色の特徴は、検査の時間が短いことです。およそ10分程度で結果が得られます。
 
光学顕微鏡で観察すると細菌の染色の色(紫、赤、染まらない)と形状が分かりますが、細菌の菌名を全て断定することは不可能です。

 

 
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細菌壁が一層のグラム陽性菌

 

グラム陽性菌の細胞壁は主に糖やアミノ酸で構成された分厚いペプチドグリカンの一層の壁で被われています。

 

グラム陽性菌の代表的な細菌にはボツリヌス菌、ぶどう球菌、ウェルシュ菌、乳酸菌などがあります。

 

人はペプチドグリカンを持たない反面ペプチドグリカン層にダメージを与える酵素を作る能力を持っています。

 

従って、グラム陽性菌はグラム陰性菌に比べると相対的に危険は低いとされていますが、中には悪性度の強いグラム陽性菌もいます。

 

 

A群溶連菌
A群溶連球菌は、連鎖球菌に分類されていて顕微鏡では青い球菌が鎖のように連なってみえます。

 

溶連菌には、A群の他にも、B群、C群、D群、G群などがあります。

 

A群溶連菌は様々な免疫学的な病気を引き起こします。

 

自己免疫疾患のリウマチ熱や糸球体腎炎などもA群溶連菌が関係している疾患です。

 

最も重い疾患には「壊死性筋膜炎」があり、一般には「人食いバクテリア」と呼ばれ筋膜を短時間のうちに溶かされて死に至ります。

 

A群溶連菌は、ペニシリンに対して感受性が非常に高いのでペニシリンが治療として使用されています。

 

 

肺炎球菌
肺炎球菌は、顕微鏡で観察すると細長い楕円形の菌が二つつながっている双球菌に分類されています。

 

連鎖球菌は、肺炎の原因菌ですが、さらに重い疾患では細菌性髄膜炎があります。

 

また、中耳炎や副鼻腔炎なども肺炎球菌が原因となります。

 

肺炎球菌は宿主の白血球(免疫細胞)の攻撃から守るために、表面に莢膜(きょうまく)というゲル状の物質を持っております。

 

健康体であれば、白血球などの免疫細胞がリンパ節で肺炎球菌を殺傷しますが、免疫力が低下していると肺炎球菌に感染して病気を引き起こします。

 

肺炎球菌による肺炎では治療にペニシリンが使用されます。髄膜炎ではペニシリンの濃度が上がらないため、セフェムやバンコマイシンなどの抗菌薬が使われます。

 

 

腸球菌
腸球菌は、D群溶連菌に分類され、消化器官の中に存在することが多い菌です。

 

腸球菌は、尿路感染症や胆管炎などを起こします。また、血流感染を起こすと感染性心内膜炎を引き起こします。

 

腸球菌には、エンテロコッカス属フェカリス菌とエンテロコッカス属フェシウム菌などがあり、フェカリス菌はペニシリンで治療し、フェシウム菌はバンコマイシンが投与されていましたが、最近は薬剤耐性をもったバンコマイシン耐性球菌が出現しています。

 

 

黄色ブドウ球菌
顕微鏡で観察した時に、黄色ブドウ球菌の集団が黄金色をしていることから、この名前が付けられています。

 

黄色ブドウ球菌は、皮膚や軟部組織に感染を起こします。

 

皮膚に付着しやすい菌で、菌が血液中に入り込んで菌血症を起こすと感染性心内膜炎を起こしやすい菌です。

 

黄色ブドウ球菌の治療に対しては、以前はペニシリンが使用されていましたが、耐性化が進んだため他の抗菌薬が使われています。

 

 

グラム陽性桿菌
グラム陽性菌の中では少数派のグラム陽性桿菌、重篤な病気を引き起こす菌でもあります。

 

グラム陽性桿菌の多くは嫌気性菌でクロストリジウムデフィシル感染症もその一つです。

 

また、好気性のグラム陽性桿菌では、セレウス菌は食中毒の原因菌であり、細菌テロに使われる炭そ菌もこの仲間です。

 

 
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細菌壁が二層以上のグラム陰性菌

 

相対的に毒性の強いグラム陰性菌は二層以上の細胞壁を持つ細菌で、ペプチドグリカン層はグラム陽性菌よりも薄く外側の細胞壁は脂質やタンパク質で構成され被われています。

 

代表的な細菌には大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、ペスト菌などで、グラム陽性菌に比べて病原性が高い傾向にあります。

 

グラム陰性菌は外膜が莢膜(きょうまく)や粘液層で覆われた構造となっているものが多く、細菌の抗原が隠蔽されるため人の免疫系が異物だと認識することが難しい構造になっています。

 

 

大腸菌
大腸菌には、腸管にいる時に病原性を持っている種類。腸管にいる時に病原性がない種類があります。

 

腸管にいる時には感染症を起こさなくても、いる場所によって病原性を発揮するものがいます。例えば、尿路感染症は肛門と近いため大腸菌が付着して起こるケースがあります。

 

東南アジアなどに旅行に出かけ、現地の水や生ものなどが原因で下痢を起こす腸管毒素性大腸菌や腸管出血性大腸菌などがあります。腸管出血性大腸菌感染症は、O-157で知られていますが、ベロ毒素を産生します。

 

 

腸内細菌科
腸内には天文学的な数の腸内細菌が生息していますが、腸内細菌科は好気性グラム陰性菌の総称です。

 

腸内細菌科とは、一般的には人の腸内に生息し定着しているセラチア、クレブシエラ、エンテロバクター、大腸菌などを指します。

 

これらの腸内細菌は、尿路感染症やカテーテル感染などの院内感染を引き起こします。
最近では、多くの腸内細菌が強い薬剤耐性を持つようになっています。

 

 

カンピロバクター菌
カンピロバクターは、鶏肉や牛肉から感染する細菌です。腸炎を起こすことで知られていますが、血液中に入り込んで菌血症を起こすこともあります。
また、カンピロバクターに感染後、神経の病気であるギランバレー症候群を起こすこともあります。

 

 

赤痢菌
赤痢菌は、多くの場合汚染された食べ物や水によって感染しますが、血の混じった便が特徴の腸炎です。

 

 

エルシニア菌
エルシニアは、豚肉や乳製品を介して感染するケースが多く、右下腹部に痛みを生じる腸炎であることから、盲腸と誤診することが多い腸炎です。

 

 

ビブリオ菌
ビブリオは、海中に住んでいる菌で、海産物を食べて腸炎になることがあります。
ビブリオ属のコレラ菌は、強烈な水下痢が起こり、強い脱水で命を落とすこともあります。
肝硬変のある方は、ビブリオが皮膚感染症や菌血症を引き起こして、死亡率が高くなります。

 

 

サルモネラ菌
サルモネラは、鶏卵や鶏肉から感染することが多い菌です。生卵や鳥刺しで感染が確認されています。
サルモネラは腸炎を起こしますが、菌血症を起こして血管壁に付着して動脈瘤の原因になることもあります。
また、サルモネラの中には、チフス菌やパラチフス菌がいて、熱の原因となる腸チフスを起こすことで知られています。

 

 

ヘリコバクター
ヘリコバクターの仲間で知られているのが、ピロリ菌です。慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因になる細菌です。

 

抗菌薬で除菌することができます。現在この治療は健康保険が適用されています。

 

 

緑膿菌
緑膿菌は、毒性が強く、抗菌薬が効きにくく、院内感染を起こしやすい菌として知られています。

 

緑膿菌は、肺炎や尿路感染、カテーテル感染などいろいろなかたちで院内感染を引き起こす細菌です。

 

抗がん剤治療などによって、白血球が少なくなって免疫が低下した時に緑膿菌に感染すると死亡率が大幅に上昇するので注意が必要です。

 

最近、緑膿菌も強い薬剤耐性を持っている種類が増えていて大きな問題になっています。

 

抗菌薬には、セフェム、ピペラシリン、カルバペネムアミノグリコシド、ニューキノロンなどがありますが、複数の抗菌薬に対して耐性をもっ多剤耐性緑膿菌が増えています。

 

 

グラム陰性球菌
グラム陰性球菌には、髄膜炎菌、淋菌、モラキセラなどがあります。

 

髄膜炎菌は、髄膜炎を起こす細菌でアフリカや中東では感染者が多く、ワクチンが普及しています。

 

淋病は、性感染症の一つで生殖器から膿が出てくる感染症です。

 

また、菌血症を起こして関節やアキレス腱などに病気を起こすことがあります。

 

最近では淋菌も薬剤耐性を持つものが増えているので、注意が必要です。

 

モラキセラは、気管支炎や肺炎などの呼吸器感染を起こして、副鼻腔炎や可能性角結膜炎を起こす菌としても知られています。薬剤耐性を持つモラキセラが増えています。

 

 
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死んでも毒性を現すグラム陰性菌
腸内細菌で悪玉菌のグラム陰性菌は死滅すると毒性が強くなり解毒するために肝臓に運ばれて殺菌処理されます。

 

飲酒が習慣化するとグラム陰性菌が増加することが解明されていますが死滅すると毒性を発揮するため肝臓に運ばれて解毒殺菌処理されます。

 

この時に女性の体内では女性ホルモンが作用して肝臓に危険信号を過剰に送るため肝臓も応じて必要以上に過剰な殺菌処理を行います。

 

その結果、女性は肝臓に負担がかかりすぎて男性よりもアルコール肝炎を発症する確率が男性に比べて高くなります。

 

女性の飲酒は男性よりも肝臓を悪化させる危険が高いといわれているゆえんです。

 

グラム陽性菌とグラム陰性菌の構造上の違いや特徴をご紹介させていただきました。

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